広島高等裁判所 昭和39年(ネ)255号 判決 1965年5月19日
控訴人(被申請人)
宝泉寺
外一名
代理人
波多野義熊
被控訴人(申請人)
緒方次平
代理人
辻富太郎
主文
原判決を取り消す。
本件につき、山口地方裁判所が昭和三九年六月二十三日なした仮処分決定を取り消す。
被控訴人の仮処分申請を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事 実<省略>
理由
昭和三九年五月当時における控訴人宝泉寺の責任役員が、山本康道、小川ヨシ子および河村大英の三名であつたこと並びに被控訴人が先代緒方武三郎を単独相続したことは、当事者間に争いがない。
被控訴人は、先代緒方武三郎が、昭和三三年七月三〇日、控訴人宝泉寺と同控訴人所有の山口県阿武郡須佐町大字須佐字藤ケ迫一一〇八番山林一町三反八畝二〇歩の本件土地において「はんれい岩」全部の採取を目的とし、採石料一カ年金一〇、〇〇〇円、毎年七月末日までにその年の八月一日から翌年七月末日までの一カ年分を前納すること、右採石料を前納するときは採取を継続することができる旨の「はんれい岩」採取契約を結び、昭和三四年二月七日、右武三郎の死亡により、被控訴人において右契約に基づく採石権を単独相続によつて取得したと主張する。
しかし<証拠>を総合すれば、控訴人須佐石材企業組合は、昭和三九年五月八八日頃、控訴人宝泉寺代表役員河村大英と本件土地における「はんれい岩」の採取契約を結び、その存続期間は契約の日から満五カ年、全期間の採石料金一〇〇万円を前納のことと定め、同年七月二〇日、山口地方法務局須佐出張所受付第一一七五号をもつてその旨の採石権設定登記をしたこと、右河村大英は控訴人宝泉寺の当時の他の責任役員山本康道、小川ヨシ子の両名に無断で右採取契約を締結したこと、並びに被控訴人主張の採石権についてはその設定登記のなされていないことを疏明できる。したがつて、控訴人宝泉寺と控訴人須佐石材企業組合との間の前記契約が有効である限り、控訴人須佐石材企業組合は、採石法第四条で準用する民法の地上権に関する規定に従い、登記を経ていることによつて、右契約に基づき取得した採石権を被控訴人に対し対抗することができるわけである。
ところが、被控訴人は控訴人須佐石材企業組合と控訴人宝泉寺との間の右「はんれい岩」採取契約が宗教法人法第一九条、第二三条、宗教法人宝泉寺規則第一〇条によつて定められた責任役員による決議を経ていないから無効であると主張するので、この点について考えてみる。右契約は、採石権の設定を目的とし、所有権に対する制限を加えることになるから、前記第二三条にいう不動産の処分行為にあたると解すべきであるが、右第二三条によれば、宗教法人が不動産の処分をするには規則で定めるところ(規則に別段の定がないときは、第一九条の規定)によるほか、所定の公告をしなければならないことになつており、同法第二四条が宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物について第二三条の規定に違反してした行為は無効とする旨定め、第二三条に違反する行為のうち無効となる場合を限定している趣旨から考えれば、境外地である不動産の処分については、宗教法人の代表役員がたとえ、第二三条の規定に違反して、所定の公告を経ず又は前記第一九条或い宗教法人の規則所定の責任役員の決議を経ないで処分した場合にも、第二四条の規定の適用がなく、その代表役員が過料の制裁を受け或は法人に対し内部的な責任を負う場合があるとしても、その処分行為は無効とはならないと解される。右の場合、民法第五三条、第五四条を準用する余地はない。そうだとすると、控訴人須佐石材企業組合と控訴人宝泉寺との本件「はんれい岩」採取契約について、控訴人宝泉寺の責任役員の決議を経ていないことは前示認定のとおりであり、また右第二三条所定の公告のなされていないことは弁論の全趣旨により明白であるけれども、本件不動産が控訴人宝泉寺の境外地であることは当事者間に争いのないところであるから、右契約の有効であることは、前に説示したところから明らかであつて、これと異なる被控訴人の主張は理由がない。<以下省略>(松本冬樹 浜田治 長谷川茂治)